なぜ管理会計が必要なのか?経営者にとって必要不可欠な予実管理とマーケティングの管理について解説します。

会社のビジネスがある程度大きくなると、業績を伸ばすべく、より精緻で的を得た目標設定と将来予測が必要になってきます。

ではそのためには何が必要なのでしょうか。著者として一番肝になってくるのが、管理会計と予実管理と考えています。また、管理会計は会社によって実施レベルが様々であり、全く実施していない会社もあれば、会社が一丸となって非常に精緻に管理しているケースもあります。

そして管理会計と密接に関わってくるのが、顧客接触ポイントの最適化を図るマーケティング領域です。管理会計の教科書にはあまり載ってない部分ですが、売上予測やKPIの設定に密接に関わる部分になりますので、管理会計・予実管理において非常に重要な領域になります。

そこで今回は、黎明期・シード期を乗り越え、ある程度規模が大きくなってきた会社にとって必須である管理会計と予実管理について解説していきたいと思います。

  • そもそも管理会計・予実管理とは何か
  • なぜ管理会計・予実管理が必要なのか
  • マーケティングとどのように連動するのか

についてもまとめておりますので、気になる方はぜひ読んでみてください。

1. 管理会計の意義と必要性

まず管理会計とは、「経営者・管理職者が意思決定をする際に目安や指針となる会計」のことを指します。管理会計は法律に則した型がないため、会社によって作り方が異なるのが特徴です。

そして決算報告や税務申告を目的とした制度会計(財務諸表(PL,BS,CF))との違いは以下のとおりです。

制度会計管理会計
利用者社外の投資家・株主経営者・社内メンバー
目的過去の業務報告将来の業務改善
ルール金商法、会社法等に準ずるなし

管理会計の中でも、目標と実績を並べて管理するものを「予実管理」と呼びます。この「予実」とは「予算」と「実績」のことであり、予実をもとに将来の予測が立てられます。様々な会社で常日頃、上記の「予算」を達成するために行動計画が練られ、予算達成に向けて邁進することになります。

しかし、クラウド会計が浸透した現代では、比較的容易にBS, PLといった制度会計に基づく財務諸表を作成し見ることが可能ですよね。では何故そのような状況でも別途管理会計のための情報を作る必要があるのでしょうか?

先に結論からお伝えすると「制度会計(PL,BS,CF)では追えない経営状況を早期に判断できるようにしたい」ためです。

では、なぜ制度会計だけでは経営状況を判断できないのでしょうか?今回は在庫がなく比較的変数の少ない広告代理店を例に解説していきます。

2,財務諸表だけではなぜ管理会計が不十分なのか

この章では管理会計が必要な理由を紐解くために「広告代理店」を例に紹介いきます。

まず前提知識として、広告代理店の営業マンのほとんどは「粗利」という指標を追います。

「粗利」とは、「広告費=売上」から「手数料にあたる金額を引いた金額」のことを指します。広告代理店の業界慣習を説明すると、広告費の利用額に手数料を上乗せした金額を売上として請求する。

例えば、80万円の広告費を利用した場合、+25%の手数料を乗せた100万円を売上と顧客に請求することになります。

出典広告代理店の仕事内容を徹底分析!現役社員に、仕事内容を聞いてみた

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では、案件ごとの粗利率は損益計算書を見て把握できるでしょうか?答えはNoです。損益計算書は企業の全ての損益が記載されてるデータですが、ここの取引や案件の利益率まで表す性格のものではありません。

したがって、広告代理店が本来追うべき「粗利」は、月次決算等で利用するPLとは別に新しく管理会計を行う体制を作らないと、定点的に追うことすらできないことになります。また、管理会計は業種や事業規模により最適なものが異なるため、企業独自の管理会計体制の構築を行うことがあります。

例えば、京セラが採用したアメーバ経営、北の達人コーポレーションが採用している管理方法などはそれに該当します。管理会計の教科書に載るような管理手法も、元を辿れば企業オリジナルの管理会計である場合があるので、興味のある方は調べてみると楽しいかもしれません。

3.会社によって全く異なる予実管理

前章で説明した通り、管理会計は業界や企業にとって重要な変数次第で作り方が変わってきます。それでは、予実管理はどのように作られるのでしょうか。

予算は基本的に、以下の2つのアプローチがあります。

  • トップダウン方式:経営者が目標値を設定して予算を作成する
  • ボトムアップ方式:各部門から集めた情報を集約して予算を作成する

それぞれのメリット・デメリットは以下の通りです。

メリットデメリット
トップダウンアプローチ・経営者が目指したい
予算になる
・管理職層のモチベーションが高い
・予算の達成難易度が高い
・現場層の達成へのモチベーションが低い
ボトムアップアプローチ・実現可能性が高い
・現場層への達成のモチベーションが高い
・経営者が目指したい業績を予算にすることができないことも
・管理職層のモチベーションが
低い場合がある

引用:梅澤真由美(2018)『今から始める・見直す 管理会計の仕組みと実務がわかる本』

中央経済社

予算を作る時のコツは、以下のようなものがあります。

業績に与える影響が大きく、変動が大きい変数で作る

予算の粒度をあまりにも細かくしすぎると、作成及び実績集計に工数がかかりすぎること、木を見て森を見ずの状況になってしまうため、予算を追うだけで精一杯になってしまいます。そのため、業績に与える影響度が大きく、変動が大きい変数でまとめて作ることが有用です。

例えば、広告代理店の場合だと「粗利」を軸に考えることが多いです。「粗利」をベースに、「売上」「原価」「粗利」「人件費」「営業利益」といった大まかな粒度で変数を設定することが多いです。

また、その際に社内で用いられるKPI等も予算に織り込むことで、社内の目標として追うべき数値が明らかになるなどのメリットがあります。

利用者ごとに予算設定を変える

上場企業などは投資家に経営計画を公表することが求めらることがあります。投資家や金融機関用目線である「社外用の予算」と、従業員に対する目標値として設定をする「社内用の予算」という形で設定している会社もあります。

一般的に「社内用の予算」の方が高い目標として設定されており、達成できれば理想的だが、達成できなくても「社外用の予算」を満たせるなどに用いられます。

ただし、実現不可能な高い目標を設定しすぎると、逆に社内のモチベーションが低下してしまう恐れがあるため、どの程度ストレスをかけるかは検討する必要があります。

4. 管理会計×マーケティング×予実管理

ここまで管理会計における予算作成について述べてきたが、マーケティング部署・営業部署の方々は少々とっつきにくいかもしれません。ですがマーケティング部署・営業部署の方々も、知らない間に管理会計を作成して予実管理をしているケースが多いです。

例えば、マーケターの方(特にWEB領域の方)は常日頃、Imp, Click, Cost, CPA, CVなど、さまざまな目標値として追っているかと思います。また営業の方々もリード数、アポ数、受注数でそれぞれ目標があるかと思います。

それも立派な「管理会計」であり、目標と実績を追っているのであれば「予実管理」に該当します。それを財務諸表形式の事業計画に落とし込むのは難しいかと思いますが、これらの情報を整理して経理チーム等に共有することで、より質の高い予算を作成することができるはずです。

では、マーケターや営業の方々が常日頃追っている数値は、管理会計ではどのように映るのでしょうか。これは、マーケティングファネルで落とし込むとわかりやすいはずです。

マーケティングファネルとは、顧客接触から利益創出までのプロセスを指します。

上記と同じく広告代理店モデルで考えた場合、利益が出る変数はそれぞれ下記のようになります。

  • マーケティング予算
  • サイト流入数
  • リード数
  • 初回ヒアリング数
  • 提案数
  • 受注数
  • 6ヶ月以上の継続クライアント数

※リードは資料請求、問い合わせ、初回面談など会社によって様々。

マーケティングの世界では、それぞれの変数によって「数」「単価」「率」が決まり、それぞれに「予算」「実績」が追加され、予実管理をすることになります。これらの数値をKPIとして定め、管理会計上の予算に反映されます。

5. まずは何から始めるか

これまで広告代理店モデルを例にして管理会計・予実管理の説明してきました。予実管理は業種、会社によってキードライバーが異なるように、管理方法も全く異なります。

ですので、一番最初にやるべきことは、自分のビジネスで一番重要な変数を洗い出して、自社に合った管理会計の手法をカスタマイズすることが重要になります。

そのうえで、重要な変数を収集するための仕組みを整えて、財務会計のみならず管理会計にも使えるデータを貯めることが重要です。データの集めるコツとしては、以下の通りです。

  1. ユースケースから逆算して必要なデータ形式を定義する
  2. Excelからでも問題ないので、そのデータを集めるための仕組みを小さく整備する
  3. 事業規模の拡大に伴い、データ形式や収集方法をカスタマイズする

最初から大きな仕組みを作り込みすぎると、「早すぎる最適化」を起こして実態にそぐわない設計になってしまうことがあります。ですので、ユースケースありきで小さく作り、ギャップを埋めながら作成するのがおすすめです。

おわりに

以上、管理会計・予実管理における言葉の定義から、重要だと考えるポイントを解説させていただきました。この記事を読んでいただき、より会社の組織運営が効率化されるきっかけになっていただけたら非常に嬉しいです。

しかし、日常の業務をこなしつつ、高度なレベルで管理会計・予実管理を実行するのは非常に困難ですよね。また管理会計のレベルを上げるには、営業・マーケティング部署のデータ、経理データの連携などシステムに関する知識も必要になります。

当事務所では会計・税務処理だけに止まらず、システム監査技術者の資格を有している専門家がいることから、業務プロセス改善・システム導入・IPO支援に強みを持っています。

長期的に存続する要因の一つである、予実管理・資金管理体制が強い会社を早めに構築したいと願う会社様はぜひお問合せください。

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