【監査法人出身の会計士が解説】内部統制の目的からメリット、監査法人との向き合い方まで解説します。

はじめに

生まれたビジネスが軌道に乗り始め、売上や人数が増え始めたフェーズの会社が検討し始めるのが、会社組織の運用体制を整備する=内部統制かと思います。この内部統制は、IPO実施の有無問わず、会社の規模が大きくなったタイミングで実施されることが多いです。

しかし、この内部統制ですが、そもそもの目的や実施メリットはもちろん、監査法人との向き合い方を間違えてしまい、会社本来の強みが消えてしまう可能性もあるのです。そこで、今回は監査法人のIPO部門で勤務経験がある会計士の知見を活かし、内部統制について語っていきたいと思います。

  • そもそも内部統制とは何か?
  • 内部統制のメリットとは何か?
  • パートナーとはどのように関われば良いのか?

など内部統制に関わる事柄をまとめてみましたので、気になる方は是非読んでみてください。

そもそも内部統制とは?

まず、内部統制とは何かについて解説していきます。金融庁の定義によると、内部統制とは、「業務の有効性及び効率性、財務報告の信頼性、事業活動に関わる法令等の遵守並びに資産の保全の4つの目的が達成されているとの合理的な保証を得るために、業務に組み込まれ、組織内の全ての者によって遂行されるプロセス」のことを言います。

財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準

出典:金融庁

さらに口語体に噛み砕いてお伝えすると、「もっと社内メンバーで効率よく組織運営するために交通整備をしていきましょう。」というプロジェクトのことです。

またこの定義を分解すると下記のようになります。

内部統制の要素行動内容
社内メンバーで組織内のメンバー内で情報整理ができるような仕組みを作る。
効率よく組織運営する効率的に経営情報を取得し早期に予実実績の改善に努められるように改善。
交通整備情報取得・加工・可視化・改善ができる仕組みを整備する。

※厳密な定義ではございませんのでご了承くださいませ。

そのため、何らかの理由により、今までと同じ業務プロセスだと効率的に組織運営することが難しくなったきた場合、IPO実施の有無を問わず、必然的に内部統制が必要になります。ここで肝となるのが、内部統制の目的は「IPO成功のためではない」ということです。(なぜこの目的が肝になるのかは後半に解説します。)

では内部統制の目的とは何でしょうか。内部統制は以下4つの目的を達成するために整備・運用します。

目的意味・詳細
業務の有効性及び効率性事業活動の目的の達成のため、業務の有効性及び効率性を高めること
財務報告の信頼性財務諸表及び財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性のある情報の信頼性を確保すること
事業活動に関わる法令等の遵守事業活動に関わる法令その他の規範の遵守を促進すること
資産の保全資産の取得、使用及び処分が正当な手続及び承認の下に行われるよう、資産の保全を図ること

とはいえ内部統制は、今までの管理オペレーションを大きく変更することも多いですし、整備を行うためのコンサルティングfeeもかかるため、会社としても大きなコストがかかります。しかしそれでも内部統制を実施するメリットは数多くあります。

内部統制のメリット

内部統制を整備する主なメリットはこちらです。

  1. 月次決算の効果・効率の向上
  2. 経営の迅速化
  3. 情報伝達の効率化、適正化

月次決算の効果・効率の向上

  • 内部統制により経理体制が自計化され、より迅速に経理情報が集まるようになる。
  • 適切に運用オペレーションが設けられ、誰が運用してもスムーズに月次決算が締まるようになる。
  • 部門間の情報連携がスムーズに実施され、情報収集がしやすくなる。
  • ミスを事前に発見することが出来るため、正確性が向上する。

経営の迅速化

  • 経営に必要な情報が整備されるため、経営の意思決定が格段に速くなる。
  • 業務マニュアルや作業手順の整備により、生産性が向上する。

情報伝達の効率化、適正化

  • 経営者の考えを社内の隅々まで行き渡らせることができる。業務の一本化が可能。
  • 業務遂行において、どこでどんなリスクの発生が予測されるか、その対応が把握しやすくなる。
  • 業務が可視化され、明確になることで社員のモチベーションアップにもつながる。

このように内部統制を行えば経営体制基盤を整えることができ、より健全な経営体制が構築できるようになります。

ただ、内部統制のパートナーとして関わる機会が多いのが、監査法人や内部統制導入支援コンサルの方々です。内部統制では、このパートナーとの関わり方も重要になってきます。

パートナー主な業務内容
監査法人財務諸表監査の一環で内部統制の評価を行う
内部統制導入支援コンサル経営者、バックオフィスメンバーと監査法人の間に入って、内部統制導入を推進してくれるアドバイザリー業務を行う

次の章でそれぞれのパートナーとの関わり方について解説していきます。

監査法人による内部統制評価を受ける時の注意

監査法人との関わり方について解説する前に、そもそもなぜ監査法人が必要なのでしょうか。監査法人は何をしてくれるパートナーなのでしょうか。

まず監査法人とは、公認会計士法に基づき、会計監査を目的として設立される法人のことを指します。そして主に何をしてくれるのかというと、企業の財務諸表の適正性を公認会計士が公正な立場でチェック=「会計監査業務」を担当します。詳細な定義は下記をご覧くださいませ。

監査法人/有限責任監査法人

出典:日本公認会計士協会

昨今では「会計監査業務」はもちろんのこと、社内メンバーで効率よく組織運営するための交通整備=「内部統制」が適切に行われているか、を評価する業務もあります。

このように、内部統制を整備・運用するための体制を構築することで、経営体制が格段によくなることもありますが、内部統制の検証や監査が入ると違った難しさが発生します。主な難しさは下記の2点です。

  1. 監査法人とのとの業務交渉
  2. 担当者の選び方が非常に難しい

監査法人との業務交渉

では、なぜ監査法人との業務交渉が難しいのでしょうか。先に結論からお伝えすると、監査法人の方は「監査のロジック」で指摘をしてしまうケースが多いためです。どういうことかお伝えしますと、監査法人との業務交渉では下記のような不具合が生じるケースが多いです。

  • 監査法人は内部統制の検証を行う際に、どうしても「財務報告に係る内部統制」を中心に見てしまう。特に「承認とその証跡」などを非常に求めてしまう。
  • 監査法人の言うことを鵜呑みにした結果「記録のための記録」を残してしまい、業務に有効に組み込まれた設計にならずチグハグになるケースがある
  • 利用しているシステム等の内容を理解せずにアナログな方向に寄せられる可能性もある

そのため、内部統制を整備・運用する被監査会社は、相手の指摘の趣旨と実務の中身を踏まえた落とし所を見つけなければなりません。

担当者の選び方が非常に難しい

次に難しいのが担当者の選び方です。監査法人は担当者ガチャの側面が強く、必ずしも会社にとって良い人に当たるとは限らないのが現状です。

なぜならIPOに精通しているかどうかは経歴だけだと判別できないうえ、担当者のアサインによってどれだけIPOに精通しているかが変わるからです。そのため最初の営業や提案の段階で「この方なら提案内容もわかりやすいし話しやすそう」という観点で選ぶ形になるでしょう。

理想的な監査法人の選び方

とはいえ、監査法人の選び方は運任せでしかない、という訳ではございません。現場経験を元に監査法人を選定するのであれば下記の2点がわかるような質問をしてみると良いでしょう。

IPOに関わる組織の心情が分かっている方(最も理想型)

例えば、「このあたりは主幹事証券会社が気にするポイントなので〇〇のように改善すると良いと思います。」のようなコミュニケーションができる方だと、内部統制がかなりスムーズに進みやすいです。

顧問先のビジネスをしっかり理解してくれる方

会計体制はビジネスによって経営資源の流れが異なります。なので関わる企業のビジネスフローを理解していないと内部統制の指摘がクリティカルなものでは無くなってしまいます。もちろん最初は難しいと思いますが、ビジネス理解しようと努力してくれるパートナーだと良いでしょう。

主幹事受託がNGの監査法人か気をつける

思いの外盲点になるのが、証券会社から主幹事受託のNGが出てる監査法人があることです。そうではなくても審査段階で「なぜこの監査法人を選んだのか?」というコメントが入ることもあるので、過去に行政処分入った法人などを避けるなどをするのが望ましいでしょう。

内部統制導入支援コンサルとのやり取りのコツ

内部統制導入コンサルについて解説する前に、そもそもなぜ監査法人とは別で、内部統制導入支援コンサルのニーズがあるのでしょうか。

結論からお伝えすると、「内部統制は監査法人側の指摘を汲み取るのに、専門的な経理知識や業務フロー改善の知識が必要なため」です。そのため内部統制に関しては、経営者、バックオフィスメンバーと監査法人の間に入って、内部統制導入を推進してくれるアドバイザリーのニーズがございます。

この章では

  • 内部統制導入コンサルは何をしてくれるのか
  • 内部統制導入支援コンサルの選び方

について解説していきます。

内部統制導入支援コンサルは何をしてくれるのか

内部統制支援でやってくれる内容は主に以下の通りです。ただ内部統制は場合によってIT知識も重要になるため、導入支援の難易度別に紹介します。

難易度業務内容
必須項目業務内容の理解のためのヒアリング
三点セット作成
理想項目業務プロセス構築
超理想項目IT統制における全般統制
情報処理統制の準備

基本対応できる内容に関しては、どの会計士でも大丈夫かと思いますが、業務プロセス構築以上になると、内部統制の経験値はもちろん、IT知識なども関係するので、もし内部統制導入支援コンサル選定する場合は、IT知識に明るい方と一緒に面談すると良いでしょう。

内部統制導入支援コンサルの選び方

前述したように、内部統制導入支援コンサルの業務内容は異なります。ですので、選び方にも難易度が存在します。

難易度業務内容
選ぶ上での必須ポイントやり取りがしやすい(チャットツール・ドライブ共有・レスの速度など)
ビジネスの理解を踏まえたうえでツールを共有してくれる
理解があると良いポイント監査法人の気にするポイントを把握する。
主幹事証券会社が気にするポイントを把握する。
ごく僅かだか理想的なポイントITに明るくIT統制まで出来る。

こちらは経験的な話になりますが、監査法人・主幹事証券会社が気にするポイントが的確にわかる方もかなり少ないように思えます。この辺りはコンサルタントの経験をヒアリングしながら吟味していくと良いでしょう。

パートナーも選ぶ立場にいる

これまでパートナー側(監査法人と内部統制導入支援コンサル)の関わり方について解説していきましたが、反対にパートナー側はどうやって導入支援企業を選定するのでしょうか。

当たり前ですがパートナー側もビジネスでコンサルティングをしているので「この会社の内部統制をやって問題ないか、、」と選ぶ立場にいます。ではパートナー側は顧問先を選定する時にどこを見ているのでしょうか。下記にまとめてみました。

選定ポイント詳細
経営の自計化難易度有価証券報告書、四半期報告書を顧問先自身で作れる能力がありそうか。今後そうなりそうか
経営の自計化実施に向けての工数及び難易度が低いか
顧問先のビジネス価値これまでのコーポレートストーリー、市場感から、今後顧問先の会社が伸びそうか
会社のビジネスレベルが問題ないか内部統制に関わるメンバーの会計、ビジネスレベル・人柄が低すぎないか

簡単にまとめると、パートナー側も工数が掛からず、確実にIPOがしやすい企業とタッグを組みたいのです。ですので売り上げが急激に伸びている企業だとしても、会計体制が煩雑であり、ビジネス上でもリスクがあるのであれば、パートナー側も提携を渋ることがあります。

そのため、「IPOしたいけど監査法人が見つからない」という「IPO難民」も発生しているのが現状です。気になる方は下記の記事をご覧くださいませ。

IPO時の「監査法人難民」が増えている?上場の主な流れも紹介

出典:ZUU Co.,Ltd.

内部統制の目的を理解して、適切なパートナーを見つけよう

以上、内部統制に関して解説させていただきました。

これまで解説したように、内部統制は、目的・メリットの理解とパートナー(監査法人、内部統制導入支援コンサル)との連携が非常に重要です。そのため、IPOによって会社が本来持っていたケーパビリティを消すような内部統制が行われないよう、パートナー側と親密に議論を重ねながら進めていくことを推奨いたします。

当事務所ではIPO経験、会計に関わる内部統制の知識はもちろん、IT・システムを活用したデータ連携・ビジネスフロー改善に強みを持っています。もし内部統制はもちろん、経営の自計化を整えていきたい方はぜひお問い合わせくださいませ。

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